前園氏の飲酒暴行事件から考える危機管理方法

 今日は、サッカー元日本代表の前園氏が起こした暴行事件に関し、マネジメント会社のその後の対応から、危機管理上留意すべき事柄を検討します。

  • 解決とは何かを正確に知る。
  • 迅速に対応する。
  • 情報チャンネルをコントロールする。
  • 毅然と対応する。

1.解決とは何かを正確に知る

 問題解決にあたっては、「解決」とはどういった状態なのか、を正確に知ることが重要です。

 今回の事件がこれほど早く解決したのは、所属事務所社長の事件初期のツィートによるところが大きいと、私は考えています。

所属事務所の責任者として私もすぐに運転手さんに謝罪に行きたいが、ご本人は明日の朝まで実車中。お身体が心配です。
-次原悦子さんのTwitterより抜粋

 問題が起こったとき、我々は、放置することも含め、その対応に迫られます。どのように対応すべきかは問題の種類により異なるので、唯一のセオリーというのはないでしょう。
 しかし、前園氏が引き起こした事件においては、まず対応しなければならないのは、被害者に対してであり、それが全てです。被害者に謝罪し、許しを得て償い、そして債権債務が存在しないことをお互いに確認する。

 この、謝罪して許しを得、示談することが本件の「解決」です。それを示した所属事務所代表の次原さんの簡潔なツィートは、表現方法、タイミング、Twitterを使ったというところまで含めて、示唆に富むものと言えるでしょう。

 一方、有名芸能人のお子さんでテレビ局社員の男性が逮捕された事件がありましたが、同じく飲酒絡みであったにもかかわらず、容疑を否認するという対応をなされました。
 この件と対比すると、問題が起きた時に何をすべきかが良く分かります。

 問題に対しては、放置する場合もあるでしょうけれど、解決に向けた施策を考えることが通常です。この場合、大切なことは、「解決」とは何なのかを正確に理解することこそ、最重要である。
 有名人や芸能人であっても「世間をお騒がせして申し訳ない」と詫びることではなく、まず、被害者さんであったり、迷惑をかけたその相手に対して謝罪することが大切です。

 解決とは何なのか、事案に応じてそれを考えるのが、危機管理の第一歩です。

2.迅速に対応する

謝罪は迅速に! 問題に対しては、迅速に対応すること。これはやはり危機管理下における鉄則と言えるでしょう。

 本件では、事件発生後ほぼ24時間で示談が締結されており、釈放後、マスメディアの多くは「前園容疑者」から「前園氏」と表現を変えて報道しました。
 もともと、「容疑者」という言葉は、刑事事件で使われる「被疑者」と同義に近いニュアンスを持ちながら、マスコミで表現されている曖昧な言葉であって、その使用方法は一定ではありません。
 本件の報道でも、ある新聞のインターネット版では釈放後も「容疑者」と表現していました。

 しかし、事件の翌朝「午前9時に示談が成立した」とわざわざ時間つきで情報が流れていましたので、民事的には解決しており「容疑者」と呼ぶには重すぎるように感じるのも事実です。

 今回、この事件がこれほど短時間で収束したのは、この早期の示談によるところが大きいことは明白です。早期の示談は、被害者に謝罪して償うという点において、被害者を第一に考えたものでありながら、前園氏の名誉を守る役割も果たしています。

 トラブルが起こった時に、いかに素早く処理するか。つまり、長引かせない。これは、危機管理上非常に重要なポイントと言えるでしょう。

3.チャンネルをコントロールする。

 本件では、タクシー会社の声明も全てマネジメント会社を通じてリリースされており、被害者サイドから直接の声を聞くことはありませんでした。このように、情報の出力チャンネルをコントロールすることが危機管理上有効であることは言うまでもありません。

 しかし、通常のトラブルでは、この情報の出力チャンネルをコントロールすること自体が、難問となります。

 たとえば、芸能人が舞台稽古に参加せず、突如降板を発表したトラブルでは、制作者側から主張がなされ、それに芸能人所属事務所が応戦するという形でワイドショーを賑わし、結果、現在は民事訴訟となっています。

 通常、対立する当事者間のトラブルで情報のチャンネルをコントロールすることは極めて困難です。しかし、そうならないためにも、上述のとおり、解決の本質を知り、それを迅速に処理することで、上手に対応することが可能です。

 本件では、示談内容に「第三者に語らない」ことが含まれていたとも考えられ、それも含めて見事な手腕と言えるでしょう。

4.毅然と対応する。

 示談が成立し釈放された後、前園氏は会見しました。この時、立ったままの対応したことに、私は感心しました。
 この記事を書くために検索してみると、案の定「直立不動で謝罪会見」と見出しを打っていたスポーツ新聞がありました。

 この会見は、問題を終わらせるための「謝罪会見」ではありましたが、濃い色のスーツを着て右手を隠して対応する姿勢には毅然としたものが感じられました。酔っぱらってしでかした不祥事の会見で毅然さを演出するというのも、真面目に考えると滑稽ではありますが、座らずに立って会見したことは、会見時の印象を随分良くしたのではないでしょうか。

 謝罪というと下手に出なければならない感じを受けますが、しっかりと謝罪しなければならないのは被害者に対してであって、また、自分を支えてくれている人たち、信じてついて来てくれている人たちに対してです。
 そこをクリアした(する)のであれば、世間に対して下手に出る必要なない。

 所属事務所代表の次原さんは、木村拓哉さんのポスターの前にガードマンを立たせるようなイメージ戦略をおやりになったことがある、と何かで読んだ記憶があります。この立ったままの謝罪会見も計算された、見事なものだったと感じました。

さて、まとめます。

 以上、前園氏の事件から、危機管理対応について検討しました。

「?」あなた何言ってるの?これって当たり前のこと書いてるだけじゃない??

 そう、以上の検討から導き出された事柄は、全て当たり前のことばかりなんです。
 ところが、東電にしろ、みずほ銀行にしろ、当たり前のことが当たり前にできない。
 生きていると、当たり前と分かっていても、それが出来ない場合が数多くありますね。
 けれど、それを「当たり前」としてやっていくべきだし、やっていかなければならない。

 そう言う意味では、当たり前のことを当たり前にやる「勇気」、これが危機管理において最も大切なのかも知れません。