お通し(おとおし)や有料のお水を拒否できるか(その2)

 居酒屋で頼みもしていないのに出てくる「おとおし」を拒否できるかどうかについて検討した前回のブログに引き続き、今回は、料理店でオーダーしてもいないのにお水を出された場合、それを拒否することができるかについて検討します。

お通し(おとおし)や有料のお水を拒否できるか(その1) -前回のブログ

 前回の記事では、おとおしを「商慣習」として強制的に課金することはできず、また、「席料」であっても、おとおしを拒否することは可能であるが、店としてもおとおしを拒否する客自体を拒否することも可能である、との結論を導きました(これは筆者の私見にすぎません)。

お水800円についての検討

 では、お水800円についての検討です。
この「お水800円」が話題になっているのは「価格の妥当性」の他、「頼まなくてもお水は自動的に1人400円(食べログからの口コミを引用)」という書き込み、それに類似する書き込みが見られ、「お水」に対する対価を請求することの妥当性に疑問を感じる人が多いからではないかと思います。

お水の料金について

 この話題となっているレストランには、ドリンクメニューがないそうで、お水の価格も書き込みによって「200円」だったり「一人400円」だったりと定かではありません。
 もとより本稿は価格の妥当性を考えることが目的ではありませんので、お水の料金うんぬんについてではなく、「自動的に1人400円」「お水をご用意しますと言われ、こちら側が希望していないのにしっかり料金(200円)が取られていた」(以上、食べログからの口コミを引用)点について検討を試みます。

お水を給仕する行為

 私の経験では、海外に行けば、「ウォーター」でも有料が普通です。
 海外へ行けば、ものを頼む以上、それに対して対価を請求されるのは当然のこと。そして、私が行ったようなレストランでは、お水の値段も書いてありました。つまり、私はお水が有料であることを承知した上で注文し、それに対価を支払っているので問題はないわけです。

 一方、日本のファミレスでもお水を給仕してもらえますが、これは無料サービスです。たとえば、ファミレスで会計をする際に、フォークやお箸の使用料を請求される訳ではありません。ファミレスで料理を注文するということは、料理だけでなく、それをおいしく頂くためのサービスを包括的に注文していると考えるのが自然です。そして、ファミレスでは、その包括的サービスの一要素として「お水を給仕すること」を含めていると考えられます。

高級料理店での「お水の給仕」

 では、高級料理店でお水を給仕する行為は、有償でもやむを得ないのでしょうか。
 私はそうは思いません。
そもそも、「高級かどうか」を決めるのは利用者であって店側ではありませんので、ファミレスであっても、一食3万円する料理店であっても、ロジックに変わりはないはずです。

 とすれば、論点はやはり、契約が成立しているかどうかになってきます。
 つまり、客が水を注文してお店がそれを承諾すれば、客には水を受け取る権利と料金を支払う義務が発生し、店には水を出す義務と料金を請求する権利が発生する。

 ファミレスの場合は、店側が包括的サービスの一環として提供しているのか、あるいは無料サービスとして認識して行っているかは別として、契約は成立していないため、料金を請求しても拒めるはずです。

 であるならば、同じ論法で、たとえ一食3万円の料理店であっても、お水に対する料金の請求は拒めると私は考えます。
 ただし、これには「お通し」と同じ視点で、客がお水代を拒むためには、お水を置かれた時点でそれが有償であるか無償であるかを確認し、有償であるなら注文した覚えがないのでテーブルに置くこと自体を拒否することが大切でしょう。たとえお水に口をつけなかったとしても、テーブルに置くことを承諾しているのであれば、それはレストランという場所を考えて、黙示の承諾があったと言われれば抗弁しづらくなります。

 私はそのような「高級店」で食べたことがないので、お水が有償である、という常識はありません。
 いずれにせよ契約は申込みと承諾という意思の合致によって成立するものですから、お店側は申込みがしやすいように、トラブルにならないように、メニューに料金を明示する配慮が必要でしょう。

 その意味で、この「お水800円」の話題で最もフォーカスすべきは、そのお店にドリンクメニューがなかったことではないかと私は思います。

最後のまとめ

 お通しや今回のお水800円では、客が事前に確認することでトラブルを防ぐこともできますが、店側が配慮することも可能です。
 つまり、お店にすれば、そもそも、お通しを拒否したり、水が有料であることを拒む客は店に入れなければいいだけの話しなのです。
「客商売」ということを抜きにして考えるなら、それは客の「入店したい」という申込みに対し拒絶するだけの行為であって、なんら責められるいわれはないでしょう
 しかし、責められないためには、入店して客が着席する前に、お通しで料金を頂戴していることを明確に伝える必要があるでしょう。

 最後に、私がお店のオーナーであれば、どうするかについての私見です。お水800円のお店には一生行けそうにありませんので、お通しについて考えます。

 まず、私なら、お通しを拒む客に対しては「お通しを受けてもらう代わりに10%オフします」という提案をするでしょう。
 多くの居酒屋は10%オフのクーポンを発行していますし、客にとっては、2名で6000円使えばお通し代はチャラになります。商売の仕方としても上手いと思うのですが、いかがでしょうか?

 お通しも10%オフの提案も拒絶されたらどうするかっですって?
 もちろん、サービスの提供をお断りします。他のお客様はそれで納得して頂いていることとのバランスを考えるとやむを得ないと判断します。

 でも、大丈夫。自分に居酒屋の経営は絶対無理です。最近毎日21時就寝の健康優良児ですので。