住民票と住民票の写しを考える

 今日は、住民票に記載される法定項目と、住民票の写しとして出力される情報について考えます。

  • 住民票については、住民基本台帳法が定めている。
  • 記載事項は、実はとても多い。

住民票とはなんぞや?

 住民票とは、住民基本台帳の基礎となる帳票のことで、住民基本台帳法に定められています。

 住民基本台帳法(以下、本稿では「法」と呼びます。)は、第一条でその目的が定義されておりますので見ておきましょう。

第一条  この法律は、市町村(特別区を含む。以下同じ。)において、住民の居住関係の公証、選挙人名簿の登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とするとともに住民の住所に関する届出等の簡素化を図り、あわせて住民に関する記録の適正な管理を図るため、住民に関する記録を正確かつ統一的に行う住民基本台帳の制度を定め、もつて住民の利便を増進するとともに、国及び地方公共団体の行政の合理化に資することを目的とする。

 そもそも住所とは、民法第22条で定められている概念です。「各人の生活の本拠」と定義されていますが、これを国が把握しておくことは、選挙人名簿の登録上重要なことなんですね。住所と民主主義がこんな所で結びつくというのは、新鮮な驚きがあります。最近の法律には、第一条で目的を定めるという構成が多く、この第一条に触れておくというのは大切なことではないでしょうか。

 さて、住民票自体は法第6条第1項に定められています。

第六条  市町村長は、個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して、住民基本台帳を作成しなければならない。
2  市町村長は、適当であると認めるときは、前項の住民票の全部又は一部につき世帯を単位とすることができる。
3  市町村長は、政令で定めるところにより、第一項の住民票を磁気ディスク(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録しておくことができる物を含む。以下同じ。)をもつて調製することができる。

 私たちが窓口で交付を受ける住民票というのは、正確にはこの役所が保存している住民票の「写し」です。申請用紙にも「住民票の写し等 交付請求書」(京都市の例)と書かれていますね。

行政書士と電子証明書

住民票に記載する事項

 住民票に記載すべき事項についても法が定めています。これが実はあまり知られていません。住所氏名や続柄、世帯主の他にもたくさんの記載事項がありますので見ておきましょう。但し、長い条文ですので一部省略します。

第七条  住民票には、次に掲げる事項について記載(前条第三項の規定により磁気ディスクをもつて調製する住民票にあつては、記録。以下同じ。)をする。
一  氏名
二  出生の年月日
三  男女の別
四  世帯主についてはその旨、世帯主でない者については世帯主の氏名及び世帯主との続柄
五  戸籍の表示。ただし、本籍のない者及び本籍の明らかでない者については、その旨
六  住民となつた年月日
七  住所及び一の市町村の区域内において新たに住所を変更した者については、その住所を定めた年月日
八  新たに市町村の区域内に住所を定めた者については、その住所を定めた旨の届出の年月日(職権で住民票の記載をした者については、その年月日)及び従前の住所
九  選挙人名簿に登録された者については、その旨
十  国民健康保険の被保険者である者については、その資格に関する事項で政令で定めるもの
十の二  後期高齢者医療の被保険者である者については、その資格に関する事項で政令で定めるもの
十の三  介護保険の被保険者である者については、その資格に関する事項で政令で定めるもの
十一  国民年金の被保険者である者については、その資格に関する事項で政令で定めるもの
十一の二  児童手当の支給を受けている者については、その受給資格に関する事項で政令で定めるもの
十二  米穀の配給を受ける者については、その米穀の配給に関する事項で政令で定めるもの
十三  住民票コード
十四  前各号に掲げる事項のほか、政令で定める事項

 健康保険・年金・選挙権・児童手当など、国や市に収める税金以外のお金と貰えるお金についてちゃんと住民票で管理しているんですね。

住民票の写しに記載される事項

 ところで、住民票の写しを請求する場合、ほとんど全ての自治体では、上記の項目のうち、1号から8号までしか表示されず、また、原則として、4号・5号と変更事項は省略されます。これも、法第12条第5項に法定されています。

第十二条 (一部省略)
5  市町村長は、特別の請求がない限り、第一項に規定する住民票の写しの交付の請求があつたときは、第七条第四号、第五号及び第九号から第十四号までに掲げる事項の全部又は一部の記載を省略した写しを交付することができる。
(以下省略)

 つまり、特別の請求があれば、本籍や続柄だけではなく、児童手当の需給に関する事項や、米穀の配給に関する事項も記載できるわけです。しかし、実際にこの種の特別な事項が記載された住民票は見たことがなく、おそらく一生見ることもないとは思います。

 住民票を請求する場合、提出先によっては、本籍の記載が必要である場合も考えられますが、住民票を取り扱う市民課の職員は提出先の事情を知らないため、そっけなく「提出先に確認してください」と返答される場合もありますが、これはある意味やむを得ないでしょう。勝手に判断すると「役所の人はこう言った」と言われるため、うかつに答えられないというのが実情と推察されます。

住民票の写しを「謄本」「抄本」と呼ばないのは何故?

 戸籍等を扱っていると、素直な疑問として何故住民票は「写し」と言う言葉を使い、「謄本」や「抄本」は使わないのか、という疑問があります。
 この点、謄本や抄本は、厳密に言えば謄本や抄本は、原本をコピー(複写)したものを呼ぶのが相当であって、様式を定めて情報をそこに当てはめて出力した住民票は「抄本」と呼ぶには相応しくないという風に考えられたのではないかと推察します(私見)。
 もちろん、コピーのないような時代においては、原本を正しく書き写したものが謄本や抄本と呼ばれていたとは思いますが、時代によって言葉の概念が変化することはありますし、住民票を出力したものを「抄本」と呼ばず「写し」と呼ぶのがその一例ではないかという気がします。

 今日は論点が曖昧になってしまいましたが、「住民票」と「住民票の写し」との違い、そして、住民票に記載されている事項は案外多いんだということをお知り頂くために書いてみました。

 久々にバーでの口説き文句に使えるようなトピックとなりましたので、週末に予定のある方はご参考になさって下さい。なお、口説き文句でお使いになる場合は免責事項のチェックをお忘れなきよう、お願い致します。