今日は、災害にあった際に押さえておきたい行政手続についてのお話しです。
このブログ記事を書いた一年後、災害対策基本法が改正され、罹災証明書に関する規定が新設されました。従って、現在においては、根拠法令としては災害対策基本法が該当しますが、実際の取扱いについてはまだ統一された運用がないと考えられるため、本稿は変更を加えず旧来の状態で公開しています。
<今日のポイント>
- り災(罹災)証明書そのものを明確に規定した根拠法令はない。
- 根拠法令がないが故に各自治体により取扱に差異がある。
- り災(罹災)時には、消防署か自治体へ確認し、速やかに手続を行うことが望ましい。
※本稿中、「り災(罹災)」は「り災」と記載します。
1.り災証明制度の法的根拠と制度利用の実際
まず、り災証明書について明確に規定した根拠法令はありません。火災の調査につき、損害程度の決定に関する定めのある消防法第33条、第34条あたりが一応の根拠と考えられているでしょうか。
実際、京都市の「り災申告書」には、「消防法第34条第1項の規定により提出を求める」旨の記載があります。
このように、法的根拠が必ずしも明確ではないり災証明書ですが、実際の生活では重要な意味をもっており、損害保険の請求、税金の減免申請などに必要となっています。
ところで、そもそも「り災」とは、火災、地震、台風、竜巻などの災害にあい、損害が発生することですが、自治体の多くでは、「り災証明」の事務手続を「火災により被害を受けられた方に対して」行う、としています。現に、神戸市のホームページにもその旨の記述があります。
それは、り災証明事務の根拠が消防法に求められていることとパラレルであると言えます。しかし、毎年、台風による被害が出ており、今回の竜巻のように、消火活動の必要がない場合にも、り災証明が必要となるケースが増えています。
政府や自治体は、現在バラバラになっている制度を統一した基準で運営できるよう、対応する必要があると言えるでしょう。
2.り災証明制度の一般的な概要
上述のとおり、法的根拠が必ずしも明確でないがために、り災証明事務は、各自治体によってまちまちですが、ここでは一般的な流れをお話し致します。現状、り災証明制度は火災を前提に設計されている側面がありますので、ここでも火災によるり災の場合を考えます。
A.り災時に届け出る『り災申告書』
り災時には、まず、損害発生の事実を届ける『り災申告書』を管轄の消防署に提出します。この『り災申告書』は京都市における呼称ですが、たとえば神戸市では、『火災損害届』と書類の頭書きも自治体により異なっています。
また、京都市では、この『り災申告書』は、単独様式であり、別に物件に応じた明細表を提出することになっています。一方神戸市では、不動産・動産・車両船舶等の三種類の『火災損害届』があります。提出期間も異なっています。
この記事では事務所がある京都市と、阪神大震災を経験している神戸市を比較していますが、お住まいの自治体でもそれぞれ呼称が異なっているかも知れません。
ただし、どの自治体であっても、『り災証明書』を申請する前に、火災発生と損害の事実を届け出る手続が必ずあると思います。
ですので、万が一、火災以外の災害で消防署員や町役場の職員がり災場所に来なかった場合、この初期手続について確認しておかれるとよいでしょう。
自治体によっては、『り災証明書』の申請には、原則としてこの『り災申告書』を提出していることを条件としている処もありますので注意が必要です。
B.『り災証明書』
『り災証明書』の取扱についても、自治体により幅があるようです。前述のとおり、『り災証明書』は損害保険請求や税金の減免で必要な書類となります。
一方、石巻市では、東日本大震災において、『被災証明』と『り災証明』を発行し、それぞれの用途を分けて取り扱っています。
大規模災害においては、通常の取扱と異なる事務手続きが行われる可能性も十分にありますので、り災された方々は、行政の広報に注意を払い、行政に確認したことはその場で担当者名もあわせてメモを取っておくなどの自衛手段を講じておくとよいでしょう。
京都市においては、『り災証明書』は、『り災申告書』を提出した消防署に対して証明申請を行います。
家屋の場合、「全壊」「半壊」などの認定を行うため、実地での調査が行われます。
3.まとめ
ここまで概観してきたように、り災証明事務手続は、各自治体によって異なっています。しかし、火災においては、災害発生時の届出と、証明申請の2種類の手続があることは、どの自治体にも共通しているはずです。
必要書類の請求がいつでもできるよう、役所や消防署で手続を確認し、早めに処理しておかれると安心ですね。
ご参考になさって下さい。