今日は、未成年者に関する民事的な能力についてのお話しです。
<ポイント>
・民法には、『意思能力』、『行為能力』、『責任能力』といった概念がある。
・未成年の中でも、年齢により認められ得る能力は異なる。
1.未成年に関する一般の認識
「未成年が悪いことをしでかしたので親に弁償してもらう。」
「未成年は単独で法律行為ができない」
このようなことを聞いたり考えたりなされた方々は案外多いのではないかと思います。
これは、誤った認識という訳ではありませんが、正解でもありません。未成年者の民事における能力について概観しながら、民法の枠組みに触れてみましょう。
2.民法における未成年
そもそも、未成年とは、民法で定められた概念です。民法第4条では、『年齢20歳をもって、成年とする。』と定めており、20歳未満の自然人を未成年と呼んでいます。
3.未成年の行為能力
ところで、この民法第4条は、民法中の『行為能力』という節に規定されています。知識量や判断力において、一般的にはオトナとよりも未熟と考えられる未成年に、民法の権利義務関係をそのまま適用すると、未成年者本人だけでなく、取引の相手方にとっても迷惑になる場合も考えられるため、未成年が法律行為をするには、その法定代理人(多くは親権者)の同意を必要と定めました。
法定代理人の同意なくして契約した場合、未成年と親権者から取り消すことができます。
『取り消すことができる』ということは、契約は不安定な状態にあるものの一応成立していると考えられます。つまり、未成年者は全く契約できない訳ではなく、完全な行為能力を有していないが故に法定代理人の同意が必要となる。このことから、未成年者は『制限行為能力者』と分類されています。
なお、法定代理人が処分を許した財産は、法定代理人の同意不要で処分することができます。つまり、お小遣いでかったお菓子の売買につき、親の同意を得ていなかったとして取り消すことはできない、ということになります。
4.未成年の権利能力
このように、未成年者は不安定な状態ではあるが契約を締結することができなくはありません。これは裏側から考えると、未成年者も契約主体となれることを意味しています。 これは常識的なことに思えますが、民法では、第3条に『私権の享有は出生にはじまる。』と明記し、人間は生まれてからすぐに権利義務を享有できる旨定めているのです。
5.未成年者の責任能力
未成年者が権利義務を享有するということは、契約の場面以外でも未成年者を保護する必要が出てきます。民法では必要な箇所に未成年者を保護する定めを設けています。このブログでは、それを『責任能力』と呼ぶことにして、お話しします。
まず、民法では、代理人をたてる場合、その代理人は完全な行為能力者でなくてもよいとしています(第102条)。ですので、未成年者も他人の代理人となることができます。しかし、代理人が負うべき責任については、第117条で無権代理人としての責任を負わない旨定められています。これは、未成年者保護の観点から定められた規定と言えます。
また、未成年者が他人に損害を加えた場合、自己の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、賠償責任を負いません(第712条)。これは、未成年者であることに加え、自己の責任を弁識するに足りる知能が備わっていないことが要件に加わっているため、19歳の未成年者なら賠償責任を負う可能性が高いことになります。
大正時代の古い裁判例ではありますが、11歳11ヶ月の少年が自転車運転中に怪我をさせてしまった事案で責任能力を認めた事例がある一方、12歳2ヶ月の少年が遊びの中で空気銃により友達の片目を失明させた事案では、少年の責任能力を否定しています。
未成年者に責任能力が認められる場合、未成年者は権利義務の主体となりますので、未成年者自身が賠償責任を負い、原則として法定の監督義務者は責任を負いません。しかし、監督義務者に不注意があって、その不注意によって未成年者が不法行為により損害を発生させた場合、監督義務者が民法709条によって損害賠償を負うことを認めた最高裁の判例もあります。
このあたりは完全にケースバイケースですので、個別事案については法律事務所での相談となるでしょう。
6.民法に規定されていない『能力』
さて、今までの内容をまとめると、20歳未満の自然人は未成年者と呼ばれ、契約の主体となることができ、不安定な状態である契約を締結することもできるが、その契約を確たるものにするには親権者の同意が必要である。そして、未成年者であるが故に責任を負わない場合がありえる、ということになります。
では、設例で考えましょう。2歳の女の子がデパートの買い物についてきました。親から離れ、ウロウロとしているうちにテフィニーなる高級ブランドショップに迷い込んでしまいました。そして、そこにあった300万円の指輪を欲しがって「これください」と言った時、店員さんが「はい」と応えれば不安定ながらも契約は成立すると考えられるでしょうか。
普通に考えれば「2歳の子だから」という単純な理由で契約は成立しないと思えます。理屈ではなく、「それはないでしょう」 という感覚になるのではないでしょうか。
しかし、勉強のためにはそれに理屈をつけなければなりません。そこで、法学者の先生方は、『意思能力』なる概念を考え出しました。つまり、2歳の子が「こ~れください」というのは、法律行為を行うための意思表示ではない。なぜなら、法律行為を有効に行うための意思表示をするための知能がまだ備わっていないからだ、と展開する訳です。
設例の2歳の女の子は、法学の世界では「意思無能力者」と表現されます。
意思能力を欠いた人の意思表示は無効となります。これは、民法に明文はないものの、当然のこととされています。
では、設例の親から離れた女の子が19歳だった場合はどうでしょう。これは、先ほどの制限行為能力の問題となって、不安定ながら契約が成立する場合が十分考えられるでしょう。
このように、同じ未成年であっても、意思能力が備わっているかどうかによって、事例の読み解きが異なってくることになります。子どもの意思能力は7歳前後から備わりだすと言われていますが、意思能力とは、意思表示ができる能力のことですので、要求される意思能力は取引の様態によって異なると考えるべきでしょう。同じ売買でも、ゲームを買うのとお祖父ちゃんから贈与された土地を同級生の親に売却する場合を比べれば、意思表示に必要な能力は自ずと異なってくることがわかります。
7.まとめ
未成年が保護されたり、責任を軽減或いは免除されたりするのは、法の定めがあるからに他なりません。
そして、一口に『未成年』と言っても年齢や法律行為の内容により異なるもんなんだということを知っておくことは、日常生活にとっても有益です。
では、最後に、冒頭のフレーズに戻って設例します。
貴方が18歳の子の親だったとして、その子がコンビニで万引きをし、親御さんである貴方に弁償を請求された場合、貴方ならどうされますか?
私なら「本人に払ってもらって下さい。」と即答します。いかがでしょう?