先日、お客様と会食した際に「牛や馬が道路を走るのには許可が必要か」というお話しになりました。今日は、日常生活の役には立ちそうにないこのトピックについて、回り道をしながら検討します。
- 牛や馬に乗った場合、その牛馬は軽車両と定められている。
- 軽車両であって、法律に特段の定めはないので、許可は不要と解する。
- 牛や馬を牽いて歩く場合も、軽車両扱いになると解される。(私見)
- どこを走行(歩行)すれば良いかは、道路交通法の定めによる。
根拠法にあたりましょう
まず、根拠法を探して条文にあたります。根拠法は道路交通法ですね。道路交通法は、第一条で目的を、第二条で言葉の定義を定めており、第二条を見ていくと「牛馬」という単語にあたります。以下、第二条第十一号のみを抜粋して引用します。
十一 軽車両 自転車、荷車その他人若しくは動物の力により、又は他の車両に牽引され、かつ、レールによらないで運転する車(そり及び牛馬を含む。)であつて、身体障害者用の車いす、歩行補助車等及び小児用の車以外のものをいう。
文書構造
このわかりにくい文言をおおざっぱに読み解くと、次にようにまとめられるでしょう。
軽車両とは、自転車、荷車、そり、運転される牛馬、牽引されレールによらないで運転される車(引っ張るのは人や動物や他の車)である。ただし、身体障がい者用の車いす、歩行補助車等及び小児用の車は除く。
選択的接続詞の使い方
単語の列挙はどこで区切るかが一見分かりにくく、この文言も「若しくは」と「又は」が文章を複雑にしています。
通常、トヨタとホンダを選択的に接続する場合は、トヨタ又はホンダとします。ここで、飛行機をさらに選択的に加える場合、トヨタ若しくはホンダ又は飛行機となります。
これが並列的接続詞である「及び」と「並びに」の場合だと、前述の例は、それぞれ「トヨタ及びホンダ」「トヨタ及びホンダ並びに飛行機」となり、及びを最小単位の結合で使う用法は変わりません。
ところが、選択的接続詞では、普通は最小単位に「又は」を使うのに、それより大きな単位(別のカテゴリに属する物を選択する場合など)を置く場合「又は」が「若しくは」に変わってしまいます。
この条文は日本語としては正しい活用ですが、それ故に非常にわかりにくいものになっているという、皮肉な構造になっています。
本題に戻りましょう
さて、もう一度翻訳した条文を見てます。
軽車両とは、自転車、荷車、そり、運転される牛馬、牽引されレールによらないで運転される車(引っ張るのは人や動物や他の車)である。ただし、身体障がい者用の車いす、歩行補助車等及び小児用の車は除く。
運転される牛馬とは、人が乗り、或いは曳いて歩いている牛馬のことを指していると解します(私見)。
軽車両はどこを走るのか
軽車両は車両の一種ですので、いわゆる「車道」の左側を通行するということになります。
ただし、道路交通法第十一条及び道路交通法施行令第七条第三号をまとめると「象、きりんその他大きな動物をひいている者は、歩道等と車道の区別のある道路においては、車道をその右側端に寄って通行しなければならない」と定められています。
まとめ
牛や馬が法律上どう概念されているのかと言うことは、知っても実生活で役立つことはないかも知れません。しかし、そんなことまでしっかり定めていらっしゃる立法担当者さんはさすがだと感じます。法務省のエリートなキャリアさんが、深夜に「牛と馬どこ通らせるよ?」と議論している風景を想像すると、どことなくのどかで、平和な気分になります。いつも、いつまでも、のどかで平和な国であってほしいですね。
※8月26日、閲覧者からご指摘を頂き記事を一部修正しました。修正前は牛馬に乗らず曳いて歩く場合、その牛馬は軽車両扱いとはならないと解する旨記載していましたが、牛馬は曳いて歩いても軽車両扱いではないかとのご指摘を受け、それが妥当と判断したため記載を変更しております。