高校時代に甲子園で人気者となったプロ野球選手が、高級外車をもらった・借りたという記事がインターネットを賑わしました。
最終的に、その選手は車をリースで借り受けていて、毎月リース料を支払っているということでしたが、今回新たに「車庫飛ばし」の問題が週刊誌で報道されているようです。
今回は、この問題を素材にして自動車登録と車庫証明について考えていきましょう。
- 普通自動車を登録するには車庫証明が必要となる。
- リースの場合、使用者の使用の本拠の位置を基準に車庫が決まる。
- 使用者とは、実際に車を使う人を登録すべきであろう(私見)。
自動車の貸し借り
自動車に限ったことではありませんが、その財産の所有者と実際に使用収益を行う使用者が異なる場合があります。
賃貸マンションが典型事例と言えますね。マンションを借りても所有権は当然移転しません。賃貸借契約を結んでいるわけですから、これは当たり前のことです。
自動車の場合でも、所有者と使用者が異なるケースがあります。レンタカーは車の賃貸借契約の一種ですが、もっと長期間車を借り受ける場合、リース契約を締結するのが一般的です。
カーリース契約とは
自動車のリース契約とは、その自動車を一旦リース会社が買い受けて、それを使用者が借り受ける形態の契約です。
借りる側からすれば、契約はどうあれ使える訳ですから、違いなどないように感じるかもしれません。しかし、原則論で言えば、通常使用における修繕義務や瑕疵担保責任は、レンタルの場合、貸し手の負担となります。一方、リース契約の場合、それは借り手が負担します。また、レンタカーの場合はナンバープレートが「わ」になりますし、毎年車検となりますね。
一般的には、長期のレンタカー契約よりもリース契約の方が割安になることが多く、また、車種も借り手側で指定することができるため、1年以上の契約の場合、リース契約になることが多いと言えるでしょう。
リース契約を行う場合、車検証の所有者欄には、リース会社の名前が、また、使用者欄には実際に車両を使う借り手の名前を記載することになります。
自動車登録と車庫、車庫証明
ところで、自動車は、登録しなければ使うことはできません。
「道路運送車両法」には「 自動車(軽自動車、小型特殊自動車及び二輪の小型自動車を除く)は登録を受けなければ運行の用に供してはならない(第4条)」と定められています。
そして、普通自動車を登録する場合、自動車保管場所証明書を得なければ、運輸支局に登録することはできません。
この自動車保管場所証明書が「車庫証明」と言われるものです。
根拠法令は「自動車の保管場所の確保等に関する法律」です。
第三条 自動車の保有者は、道路上の場所以外の場所において、当該自動車の保管場所(自動車の使用の本拠の位置との間の距離その他の事項について政令で定める要件を備えるものに限る。第十一条第一項を除き、以下同じ。)を確保しなければならない。
第四条 道路運送車両法第四条 に規定する処分、同法第十二条 に規定する処分(使用の本拠の位置の変更に係るものに限る。以下同じ。)又は同法第十三条 に規定する処分(使用の本拠の位置の変更を伴う場合に限る。以下同じ。)を受けようとする者は、当該行政庁に対して、警察署長の交付する道路上の場所以外の場所に当該自動車の保管場所を確保していることを証する書面で政令で定めるものを提出しなければならない。ただし、その者が、警察署長に対して、当該書面に相当するものとして政令で定める通知を当該行政庁に対して行うべきことを申請したときは、この限りでない。
(以下省略)
このように、法律で、(二輪の小型自動車、二輪の軽自動車及び二輪の小型特殊自動車を除く)自動車の保有者は、車庫を確保し、登録においては警察署長の交付する車庫証明を添付する必要がある旨、定められているという訳です。
問題へのあてはめ
週刊誌の記事から推測すると、今回問題となっている選手が使用している自動車は、同選手にリースされているものではなく、会社が一旦リースして、選手に貸与していると考えられます。
記事によれば、車庫証明は当該会社で取得されていたということですから、恐らく車検証の使用者は会社名義となっている(或いは、いた)はずです。
しかし、自動車は選手個人のため「だけ」に使用されている訳ですから、使用者は選手個人であるのが本来の登録実務のあるべき姿と言えます。
選手が会社に対して月12万円のリース料を支払っていたという報道もあることを考えると、高級外車の使用者は選手本人であると考えるのが妥当でしょう。
とはいえ、車検証上の使用者を変更するには、リース会社の印鑑証明書が必要となるため、これは実際上難しい。かといって、保管場所を変更しようとしても、距離の要件を満たせなくなってしまいます。車庫は使用の本拠の位置から2キロ以内である必要があるからです。会社名義で車庫証明を申請する以上、使用の本拠の位置の変更も難しいでしょう。
「自動車の保管場所の確保等に関する法律」では、保管場所を変更した場合、15日以内に変更後の保管場所の位置等を届け出る必要がある旨、定められています。違反すれば10万円以下の罰金という罰則も定められています。
本件の場合、そもそも車検証に記載すべき使用者が正しくなかったため(或いは適正に変更されていなかったため)に、車庫の変更もできないという状態になっています。
これを是正するためには、リース会社の協力を得て使用者を変更するしか方法はなさそうです。
まとめ
今回検討した事例とまったく違いはしますが、東京から京都に引っ越してきて、そのまま京都で車庫を借りて自動車に乗り続ける行為も、厳密に考えると「車庫飛ばし」になります。
「コンプライアンス」が声高に謳われる昨今、悪質な事例でなくとも、法が定める手続や届出に背いたり懈怠していると、それだけで手痛いダメージを受けることにもなりかねません。
行政書士の仕事として「車庫証明取ったりする人でしょ」と軽い嘲りのニュアンスで言われたことがあります。
お客様のために実体を正しく確認して車庫証明を取ることも、行政書士の大切な仕事。当事務所でも胸を張って宣伝しております。
今日のトピックは久し振りにバーの口説き文句で使える部類だったでしょうか。もしお使いになる場合は免責事項のご確認をお忘れなく。