先日、解体工事業登録を受けた業者さんについて解体工事業で建設業許可申請したのですが、それに関連した実務上のトピックを記載します。これは、どちらかと言うと資格者さん向けトピックです。
しかし、もしあなたが事業者さんでいらっしゃり、解体工事を請け負いたい場合にも有用な内容となるでしょう。
- 解体工事業登録を実務経験8年で申請する場合、その実務経験に対する考え方は都道府県によって異なるようだ。
- 資格者が実務経験を聞き取る場合、年金の被保険者記録照会回答票を取得するなどして裏取りしておくのが安心と感じる。
- 解体工事業登録を申請した業者について建設業許可を申請した場合でも、解体工事業登録の実務経験と建設業許可の9号様式は突合まではされていない感触だ(京都府)。
解体工事業登録について
建設業許可と言えば、ごくざっくりと以下のイメージが定着しているように感じます。
「建築一式工事については1,500万円、その他の工事については500万円未満の工事であれば許可不要。それ以上の工事を請け負うなら建設業許可が必要」
このざっくりとしたイメージは業者さんからよく耳にするもので、大意は外してないのですが、例外が二つあります。
一つは電気工事。電気工事業を営むためには建設業許可を持っているだけでは足りず、電気工事業者の登録をする必要があります。これも意外に知られておらず、戦後間もない時期に創業なさった会社でも知らずに建設業許可だけで営業していた、という話しがあったようななかったような…。
そして二つ目が解体工事です。解体工事業は、500万円未満の工事であっても請け負うためには解体工事業登録が必要になります。先に書いた一般的な「500万円未満であれば許可不要」には当てはまらず、60万円の工事であっても解体工事業登録がなければ仕事ができません。
解体工事業登録にはもう一つ見落としやすい要件があります。施工場所の都道府県毎に登録を受ける必要があります。
建設業許可ですと、原則的には知事免許であっても全国で工事を行うことができます。
しかし、この解体工事業登録は、京都府で受ければ京都府内の工事はできますが、大阪府の工事は請け負えません。大阪府で工事をするためには大阪府でも登録する必要があります。
このため、解体工事業登録では複数の都道府県に申請する場合が出てきます。
さて、解体工事業登録の申請手続ですが、書類自体は量も少なくて、京都でしたら通常3週間、早ければ2週間ほどの審査期間です。つまり、手続の難易度で言うと難しくはありません。
とはいえ、技術管理者の配置が必要なります。その要件は、ざっくりまとめると次のようになります。
- 学歴+実務経験
- 学歴+実務経験+講習
- 資格
- 資格+実務経験
- 実務経験
- 実務経験+講習
資格を持ってりゃ(5年経営していれば)建設業許可申請できる訳で、解体工事業登録をする場合、私の場合はほぼ実務経験での申請となって、その実務経験証明書をいかに作成するかがポイントとなります。
解体工事業の実務経験証明書
解体工事業登録の申請にあたり、技術管理者の実務経験必要年数は8年です。7年+講習の選択もありますが実際に使うケースはほぼないでしょう。
この8年の実務経験、誰に証明してもらえば良いでしょう。ここが、本日の論点となります。
実務経験を証明するのは、使用者が原則なります。勤めていた事業所の代表者さんですね。実例で考えましょう。
- 個人経営のみやこ建設に10年勤めていた→みやこ建設代表者による証明
- 個人経営のみやこ建設に4年勤めたら、その会社が法人なりして(株)みやこ建設になって6年勤めて退職した→個人経営のみやこ建設+(株)みやこ建設代表者による証明
- みやこ建設(株)とやまと建設(株)にそれぞれ5年勤めた→みやこ建設(株)とやまと建設(株)代表者の証明
と言った具合です。合計8年間分の実務経験があれば大丈夫です。
さぁ、ここからが問題なのです。事実として、業務委託のような曖昧な形で建設業者とお付き合いしている一人親方が少なからずいらっしゃいます。
この時、その委託元は委託形態によっては使用者に該当せず、証明書をもらいづらい場合が実際に出てきます。
こんな時はどうすればいいのでしょうか。
はい。京都府の場合、自己証明でも申請は通ります(平成4年度の情報)。
つまり、自営で8年解体工事やってましたという体裁で実務経験を証明することができます。
これ、おかしいですよね。
本来、せめて解体工事業登録を受けていなければ、解体工事はできない訳です。
ところが、建設業の許可もない、解体工事業の登録も受けていない人が「私解体工事自営でやってました」という体裁で実務経験を証明できる。
行政の担当者さんに理由をお尋ねしましたが答えに窮されていました。当たり前ですよね。答えようがありません。
滋賀県でも自己証明が可能です。但し、滋賀県の場合は「登録し忘れて工事しちゃってました、ごめんなさい」という任意様式の『始末書』を添付する必要があります。
愛知県でも同じ方式で、自己証明で行けるけれど『顛末書』の添付が必要になります。
ところが、大阪府は違います。大阪府は登録時に実務経験証明者が解体工事業を営める資格を保有しているかどうかの確認が入ります。
平成22年からの実務経験を使う場合、当時の建設業許可の通知書などを提示する必要が出てきます。
解体工事業の実務経験をどうやって確認すべきか
大阪府は原則に準じた厳しい取扱いですが、自己証明でも認めてくれる都道府県もある。
こうした状況で、実務経験をどうやって確認すべきか、資格者に取っては悩ましい問題です。
というのも、解体工事業登録は、実際上建設業許可の要件を満たしていない場合に取得し、後々は建設業許可に切り替える場合が多いのです。
ケーススタディ
実際の事例で考えます。
☆10年間ずっと業務委託のような形で解体工事をしてきた。
☆過去、確定申告はしていなかった。
☆受注金額を大きくなってきて、令和2年分から確定申告しだして、委託元からの要請で許認可が必要になった。
☆とりあえず京都府で申請する。
☆以上の状況で、平成27年から令和4年までの8年間の実務経験で申請した。
こういう事例、実際少なからずあります。
この場合、年金の『被保険者記録照会回答票』を請求しても厚生年金への加入履歴は確認できません。業務委託のような形ですので、保険年金関係は全て自己責任のようです。
ここで「実務経験の自己証明でOKだから」と安易に自己証明で申請するとどうなるでしょう。
☆京都では問題なく通る。
☆大阪でも必要になると、大阪では自己証明が使えないため、原則申請できなくなる。
☆大阪で委託元の証明書を使用すると、書類の整合性が取れない。
さらに大きな懸念を抱えることになります。
令和2年から確定申告し出した訳ですから、令和6年で5年の経営経験を満たすことができます。
ここで「建設業許可に切り替えたい」と考えても、実務経験の要件を満たしていないと判断される可能性があるのです。
自己証明した8年間は、基本的に建設業許可申請において実務経験期間として認められません。つまり、自己証明で解体工事業登録申請した場合、建設業許可に切り替えるためには別途10年の実務経験が必要になる、ということです。そして、この10年については解体工事業が営める事業者からの証明が必要です。
自己証明で解体工事業登録をした場合、同じ実務経験の期間で「誰かに雇われていた」として実務経験を証明することは無理があります。
このため、自己証明で解体工事業登録した場合、引き続き実務経験で建設業許可を申請するには18年間以上の実務経験が必要になる計算となります。
また、経営経験にも影響が出ます。
令和2年から令和6年まで解体工事しかやってこなかったとしたら、解体工事業登録を取る前の期間は法令に違反して営業していたということで経営経験として認めてもらえません(土工工事などもやっていて、その契約書等があれば問題はない)。
解体工事業登録と建設業許可のための実務経験
みてきたように、解体工事業登録申請と建設業許可申請では実務経験証明書に要求される書類の精度が異なっています。
で、実務として一番気になるのが、建設業許可申請をする際に、解体工事業登録申請時の実務経験証明書と突合して確認されるのか、という点です。
私の経験では、以前京都府に申請した際はそこまで厳密な確認はなされていない印象でした。
一方、滋賀県は確認していると言う感触です。
ただし、京都府は(決算変更届出等も割とゆったりしたスタンスではありますが)、全体的に申請要件の確認は厳しくなっている感触を受けます。
以上をまとめてみます。
本稿のまとめ
- 解体工事業登録を実務経験で行う場合、将来的に建設業許可の取得を考えるのであればそれを見越して実務経験を証明しておく必要がある。
- 経営経験5年間に、解体工事業登録前の期間を含めるのであれば、その期間の経営経験確認書類は解体工事業の契約書は使えないことに留意する必要がある。
解体工事業登録は簡単にできますが、自己証明でやると後で困ってしまうことがあります。もちろん、証明は事実に基づき行うものですが、業務委託でやっている時など、誰が証明すべきか迷ってしまう事案も実際にはあります。
このあたり、行政書士が申請するのであれば、依頼者さんの今後を見越した上でしっかりと聞き取りを行い、適正な形を整えて申請して差し上げることが大切ではないかと考えます。
なお、一番望ましいのは資格を取得してもらうことです。
ですので、弊所では解体工事業登録をなさったお客様には解体工事施工技士試験の受験を積極的に薦めています。
ご参考になさってください。