本稿は旧条例に基づいた解説です。最新の解説は「京都市における簡易宿所+玄関帳場の最新情報」をクリックしてご覧ください。
平成30年6月15日、条例が改正され施設外帳場の概念が導入されました。その詳細については施設外玄関帳場に関するまとめをご覧ください。なお、本稿で解説されている町家の場合、引き続き帳場は必要ありませんが、施設から移動距離でおおむね800m以内の場所に駆け付け要員を駐在させる必要があります。
民泊サービスを想定した、改正旅館業法施行令が平成28年4月1日から施行されています。
これによって「帳場が要らなくなったよ!」とお考えの皆様もいらっしゃるようですが、帳場が不要になるかどうかは、各自治体の条例に依拠します。
ですので、この記事を書いている時点では、京都市において簡易宿所を開業しようとする場合、原則として帳場が必要となります。
そこで、本稿では、何故帳場が必要なのか、という点を検討します。
- 改正されたのは「旅館業法施行令」と「旅館業における衛生等管理要領」である。
- 玄関帳場が必要と定めているのは京都市の条例である。
- 従って、条例が改正されるまでは玄関帳場が必要となる。
民泊を想定した旅館業法施行令の改正
民泊需要の高まりを受け、旅館業法施行令が改正されました。改正されたのは簡易宿所の客室延床面積に関する規定です。
従前は、「33平方メートル以上」が必要となっていましたが、「33平方メートル(法第3条第1項の許可の申請に当たって宿泊者の数を10人未満とする場合には3.3平方メートルに当該宿泊者の数を乗じて得た面積)以上であること」に変更されました。
つまり、3人であれば、9.9平方メートルで良い、という規定となったのです。
施行令が変更となったのは以上の1点のみです。
「旅館業における衛生等管理要領」の改正
前項で検討した改正と同時に、「旅館業における衛生等管理要領」(以下、「要領」と言います。)も改正されました。
この要領は、地方自治法第245条の4第1項に基づく「技術的助言」であって、強制力はありません。いわば、各普通地方公共団体が条例を制定するための基礎資料となる存在と言えます。
この要領については、何点かの改正がなされていますが、大きな改正点は宿泊人数を10人未満とする場合、次の二つの要件を満たしている場合は、玄関帳場を不要とした点です。
(1)玄関帳場等に代替する機能を有する設備を設けることその他善良の風俗の保持を図るための措置が講じられていること。
(2)事故が発生したときその他の緊急時における迅速な対応のための体制が整備されていること。
要領は改正されましたが、これは条例の基礎資料となる技術的助言が変更となったに過ぎません。
つまり、玄関帳場を不要のものとするためには、条例の改正が必要となる訳です。
簡易宿所の原則的な施設の構造設備基準
そもそも、簡易宿所に必要な構造設備基準そのものは、旅館業法施行令に定められております。
3 法第三条第二項 の規定による簡易宿所営業の施設の構造設備の基準は、次のとおりとする。
一 客室の延床面積は、三十三平方メートル以上であること。
二 階層式寝台を有する場合には、上段と下段の間隔は、おおむね一メートル以上であること。
三 適当な換気、採光、照明、防湿及び排水の設備を有すること。
四 当該施設に近接して公衆浴場がある等入浴に支障をきたさないと認められる場合を除き、宿泊者の需要を満たすことができる規模の入浴設備を有すること。
五 宿泊者の需要を満たすことができる適当な規模の洗面設備を有すること。
六 適当な数の便所を有すること。
七 その他都道府県が条例で定める構造設備の基準に適合すること。
この規定から分かるように、旅館業法施行令では玄関帳場が必要であるとは定められておらず、第7号で規定されているとおり、詳細は条例に委任されているのです。
そこで、京都市の条例である「京都市旅館業法に基づく衛生に必要な措置及び構造設備の基準等に関する条例」を見てみましょう。
第5条 令第1条第3項第7号に規定する構造設備の基準は,次に掲げるとおりとする。
(1) 2人以上を収容する客室の数が,客室の総数の2分の1を超えていること。
(2) 玄関帳場その他これに類する設備を設けること。ただし,特別の事情がある場合は,この限りでない。
(以下省略)
このように、京都市では条例で玄関帳場が必要であると定められています。ただし、これは原則であって「特別の事情」がある場合はこの限りではないとされています。
そして、この「特別の事情」について定めているのが、京都市旅館業法施行細則です。
第8条 条例第5条第1項第2号ただし書に規定する特別の事情がある場合は,京町家(生活の中から生み出された特徴のある形態及び意匠を有する木造の建築物で伝統的な建築様式によるもの(建築基準法の規定が適用されるに至った際現に存し,又はその際現に建築,修繕若しくは模様替えの工事中であった建築物に限る。)をいう。)を活用して営業を行う場合において,施設の構造設備及び営業の態様が次に掲げる要件を満たすものであるときとする。
(1) 客室の数は,1室とすること。
(2) 施設の全てを宿泊者の利用に供するものであること。
(3) 宿泊の形態が,1回の宿泊について,少人数で構成される1組に限られるものであること。
(4) 施設の鍵の受渡しを宿泊者と面接して行うこと。
(5) 営業者又は営業者の使用人その他の従業者(以下「営業者等」という。)の連絡先を施設内に明示し,かつ,営業者等が宿泊者から連絡を受けたときは,速やかに施設に到着することができる範囲内に所在していること。
現在、「特別の事情」として認められているのは、昭和25年以前に建築された「京町家」であって、各種の要件を満たしている場合です。一部増築で、その増築が昭和25年よりも後であった場合は認定されないと言われた経験があります。
また、「京町家」として認定されるためには、瓦葺であったり、いわゆる町家風情を残している必要があります。
玄関帳場が不要になるのはいつ?
つまり、厚生労働省からの通知は行われましたが、それだけでは玄関帳場が不要になる訳ではなく、京都市においては条例か施行細則のいずれか(或いはその両方)を変更する必要がある、ということになります。
ですので、京都市においては、この記事を書いている平成28年4月7日現在では、簡易宿所で旅館業の許可を得るためには、玄関帳場の設備が必要となります。
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