各種申請において、添付書類に「成年後見登記がされていないことの証明書」が求められる場合があります。
この通称『ないこと証明』は、申請人が書いた住所・本籍(国籍)及び氏名がそのまま証明に使われますね。ですので、窓口ではほぼ毎回と言っていいほど「間違いありませんね」という念押しが入ります。
今回、次のような事案に遭遇しました。
- 法人を届出人として手続する。
- 履歴事項全部証明書にある代表取締役の氏名に「原」の文字が使われている。
- 身分証明書を取り寄せると「日」の上に「ちょん」のない旧字体の「原」だった。
- 役所(某京都市)に確認すると、どちらかに統一して記載せよ、とのことだった。
この事案で法務局戸籍課に、ないこと証明で検索する方法を問い合わせましたのでその結果を共有します。
結論
『ないこと証明』の請求では、申請書に書かれた文字情報だけで検索照合がなされ、旧字体・正字体と言った文字の特性は考慮されない。
すなわち、旧字体で申請すれば、正字体で後見登記がなされているかどうかの検索照合まではなされない。
問題点
- 履歴事項全部証明書にある代表取締役の氏名に「原」の文字が使われている。
- 身分証明書を取り寄せると「日」の上に「ちょん」のない旧字体の「原」だった。
この場合、戸籍で使われている旧字体の「原-ちょんなし」で『ないこと証明』を請求するのが定石ですよね。
しかし私は、役所の担当者が「登記記録の文字(「原」)と身分証明書の文字が違うから、身分証明書記載の「ちょんなしの原」で『ないこと証明』を取っても登記記録と同一人物の証明になっているとは言えないよね」と言い出すことを懸念しました。
こんなくだらないことを懸念するのは、過去にその部署とは不毛なやりとりが幾度となくあったからです。
ですので、事前に担当部署に確認した訳ですが、返ってきた返答は2点。一つめ目はどちらかの文字に申請書を統一すること。これは当たり前ですので分かります。
次がいかにもこの部署らしいご回答。曰く「身分証明書と履歴事項全部証明の「原」が異なることについて一筆書いてね」と。
いやいやいや。
旧字・正字として法務省の戸籍統一文字情報に記載されている、言うなれば「顕著な事実」を、敢えてなんで届出人に疎明させる必要があるねん、と私は思いました。
戸籍が「原-ちょんなし」で記載されている訳ですから、印鑑証明もそれで記載されているはず(100%そうだとは言い切れないが今回は本人に確認済)。
それを法務局の法人登記部門が「原」で記載している。これは、旧字・正字の関係性が明かだからに他なりません。
とはいえ、これは実務屋にしては興味深い論点でもあります。
つまり、戸籍が旧字体で記載されている場合、その旧字体で『ないこと証明』を申請すれば、正字体の住所・本籍・氏名・生年月日でも検索照合してくれるのか、というお話しです。
『ないこと証明』は、申請人が記載した情報をデータベースで検索して照合し、後見登記がなされていないことを証明してくれます。
この時、旧字の「原-ちょんなし」で申請しても、旧字以外に正字も含めて検索照合してくれるのであれば、役所に「法務局に確認済」と言えば事足りる…私はそう考えました。
そこで、法務局の戸籍課に確認してみた処、返ってきた答えは「旧字で申請がなされれば、正字で確認することはしない」ということでした。
これは、実務に携わる人間にとっては有益な情報と思えます。
私は、正字・旧字が統一文字情報で紐付いているのであれば、検索漏れを防ぐという観点から両方の字体で検索している可能性もあり得ると考えて確認しました。しかし結果はハズレでした。
実務としての解決策
法務局に確認をお願いして折り返しの電話を待つ間、自転車で走りながら私は「ハッ」と思いつきました。
そうやん。両方の字体で『ないこと』証明書請求すればいいだけの話しやん。
これだったら某京都市さんも文句のつけようないでしょう。
法務局から「申請の文字種でしか検索照合しない」という折り返しのご連絡を頂いた際にこの「両方の文字で請求しますわ」という案をお話しすると「そういう方もいらっしゃいますね」と仰ってました。やっぱり同じような論点を懸念している方、いらっしゃるんですね。
まとめ
今回は、法人が届出人であり、履歴事項全部証明書記載の情報が基本となる。
ですので、書類には登記記録通り書いていくのがセオリーでしょう。
けれど、身分証明書の文字が違った。そこが引っかかりになって法務局まで問い合わせるという結果になりました。
システムがどうやって動くか、というのは全国共通と思いますし、旧字体でお悩みになった際は、正字体・旧字体の2通で証明書請求しておくのが一番安心かもしれませんね。
ご参考になさってください。