令和5年12月13日に旅館業法関連の法令が一部改正され「事業譲渡」の手続によって、営業許可の引継ぎができるようになりました。個人・法人いずれが旅館業許可を保有していても、個人・法人のどちらにも事業譲渡によって許可を承継させることができます(事業譲渡の仕組みを用いた手続は以前から存在していましたが、実際は許可の再取得であり不便でした)。
ですので、この記事の情報は掲載時点の情報です。事業譲渡を用いた新しい手続についは「事業譲渡による旅館業における営業許可の引継について」で解説していますのでそのページにてご確認お願い致します。
最近、京都では旅館業の営業許可(簡易宿所営業)を得ている不動産の売買が行われています。
このとき、最初に相談してくださればいいものを、手付金を払ってから「許可って引き継げるんですよね?」と電話をかけていらっしゃるケースが複数回ありました。
個人で得た許可の引継はできません!
ということで、今日は許可の承継に関する論点を検討します。
個人で得ている許可を譲渡することはできません。- 法人で得ている許可は「会社分割」によって承継できます。
個人の営業許可は譲渡できません
旅館業の営業許可は、【特定の施設】で【特定の人・法人】が営業することを認める仕組みです。この二つの要素を売買・贈与等の契約によって動かすことはできません。
個人で許可を得ている施設を購入する場合
この場合、現在の許可については、廃止届を提出し、新規で旅館業の許可申請を行う必要があります。もちろん、新しい営業許可がおりるまでは、譲渡人(売主)がその名義で運用することは差し支えありません。
京都の場合、学校照会、消防法令適合通知書交付申請も全て新しい名義人でやりなおす必要があります。
法人の営業許可の譲渡について
このセクションの記述自体は間違いではありませんが、事業譲渡というより便利な制度を使うことができます。詳しくはページ上部の囲み文をご覧になった上、新しい解説ページをご覧ください。
法人の営業許可については、会社分割の手続を活用することによって承継承認申請を行い、名義を変更することが可能です。つまり、法人の場合、不動産の買主も法人であれば、営業許可の承継をすることは可能ということになります。では、買主が個人の場合は無理かというと、原則は無理なのですが「新設分割」という会社分割の手法により、新たに会社を作って承継させることも可能です。
但し留意点も必要です。この会社分割は事業譲渡に似ており、債権債務関係も契約によって移転することになります。未払い金等、債務の承継についてはしっかりと確認しておく必要があるでしょう。
会社分割による営業許可の承継承認申請の流れ
会社分割による承継承認申請は概ね次の流れになります。
(1)分割契約書(分割計画書)の作成とその承認
(2)公告(必要な場合)
(3)旅館業許可の承継承認申請
(4)承継承認通知書の交付
(5)会社分割登記申請
(6)登記完了後、登記事項証明書を提出して手続終了
承継承認申請後、承認がおりるまでの期間はなかなか予測ができませんが、最短では翌日に承認されたケースがあります。一応実務上は一ヶ月程度が目安と思われますので、官報公告あたりのタイミングで承継承認申請をするのがベターでしょう。
添付書類
添付書類は分割契約書(計画書)、議事録、定款、登記事項証明書、付近地図の他に【その他】という項目があります。
この【その他】というのがミソで、好ましくないことですが、ここは担当者によって求められる書類が異なることが予想されます。営業主体が変わることは近隣にとっても重要な情報ですので、近隣への周知は必ず求めらます。
費用面からの検討
承継承認は原則公告が必要となります。公告に必要な費用は約20万円でそれに司法書士さんへの報酬、登記手続等含めると、分割会社、承継会社合わせて50万円程度の費用は必要になるでしょう。後は旅館業の承継承認申請の手数料1万円弱と、行政書士に依頼するならその報酬になります。
仮に廃止して新規申請すれば、消防法令適合通知書交付申請で設備業者に10万円、旅館業の許可申請で諸費合わせて23万円と考えれば、廃止+新規申請の方が費用的には安くなると思われます。
まとめ
現在の営業許可保有者が法人である場合、会社分割を活用した承継承認申請は選択肢の一つになります。メリット・デメリットはあるのですが、活用できる手続であることは間違いありません。とはいえ、会社分割で進めようとする場合どうしても添付書類の【その他】が大きな関心事になってきます。手続の流れだけを見ると簡単なようですが、実務的には繊細な対応が求められますので、法律や京都の条例を熟知した専門家に事前に相談なさることをお勧め致します。もちろん、京都市の窓口で相談しても丁寧なアドバイスを頂けると思います。
なお、会社合併や個人の相続による包括承継も認められているのですが、不動産の売買とは絡まない論点でしたので深くは検討していません。