整骨院のマーケティングが過熱しています。NPO法人を作り、交通事故患者を誘致するウェブ広告やのぼりを散見するようになりました。その理由は簡単、交通事故の診療は自由診療だからに他なりません。
一方、交通事故でお怪我をなされた場合、整骨院に偏重した通院実績は、後遺障害認定時において、プラスにならない場合が一般的です。
当職がご相談に対応する皆様には、このような現実を知らずに整骨院の広告に促されて通院し、後遺障害で等級が認められないという二次被害に遭った方々が少なからずいらっしゃいます。
そこで、本稿では、何故、整骨院に偏重した通院では後遺障害が認められないかという点を検討していきます。
- 後遺障害が認定されるには、真面目に「治療」を受ける必要がある。
- 連続性や一貫性は医師が認定するものである。
- 柔道整復師に後遺障害診断書は書けない。
むち打ち後遺障害の認定基準
交通事故で最も多いご相談はむち打ちに関するものですが、むち打ちの等級認定基準については、調査事務所が明確な指針を打ち出しています。
外傷性頸部症候群に起因する症状が、神経学的検査所見や画像所見などから証明することはできないが、受傷時の状態や治療の経過などから連続性、一貫性が認められ、説明可能な症状であり、単なる故意の誇張ではないと医学的に推定されるもの。
この要件は後遺障害の本質を捉えた見事なもので、様々な要素が含まれていますが、今回は「治療の経過」に注目して検討します。
そもそも「むち打ち」とは
まず、上記要件の対象となっているむち打ちについて考えます。
むち打ち、すなわち外傷性頸部症候群は、自覚症状をMRIなどの他覚所見で説明できません。たとえば、むち打ち動作によって画像上ヘルニアが認められるならば、それはもやは外傷性頸部症候群ではなく、むち打ち動作に起因する頸椎椎間板ヘルニアというのが妥当な診断になるでしょう。逆説的になりますが、自覚症状しかないから「むち打ち」と呼べるのです。
さて、むち打ちにおいては、検査画像等で症状を確認することができないが故に、自覚症状が本当なのか、賠償金目当てで言っているのではないということをしっかり確認する必要があります。では、それをどうやって確認するのか。
それは、上記認定要件に記載されているとおり「治療の経過などから連続性、一貫性が認められ」るかどうかを見る訳です。
一貫性を認めるのは誰?
では、連続性や一貫性を認めるのは誰でしょう。最終的には調査事務所であることは言うまでもありませんが、第一段階で認めるのは、調査事務所が認定に使う後遺障害診断書を書く資格者、つまりは医師です。
一貫性はどうやって認めるの?
さらに考えましょう。医師は一貫性をどうやって認めるのでしょうか。それは、治療の経過からに他なりません。
ずっと整骨院に通っていて、後遺障害診断書を書く時だけ医師の元に出向き「ずっと痛かった。痛いから整骨院に通っていた」と言って、医師は「はいそうですか」と一貫性を認めるでしょうか。
認める訳はありません。だって自分の所に「治療」しに来てないんですから。
つまり、連続性や一貫性を調査事務所に認めてもらうためには、医師が「治療の経過」を理解していることが重要となるのです。
交通事故における「治療」とは
「治療」とは、現在整骨院の広告で濫発されていますが、厳密には医師しか行えない行為です。医師法では、次のように定めています。
第二十条 医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない
つまり、医師でさえ、自分で診察せず、治療だけすることを禁じられているのです。これは、治療は診察を前提として行うという「当たり前」のことを示していますが、逆に考えると、診察できない者は、治療もできないと言えます。診察は医療行為であって、医師しかできないわけですので、診察を前提とする治療も、やはり医師しかできないのです。
柔道整復師の証明書
診察や治療は医師しかできない以上、柔道整復師に後遺障害診断書は書けません。柔道整復師が出すのは「施術証明書」です。治療を謳いながら、柔道整復師は、公的書面において「治療」という文言を使うことはできないのです。
まとめ
つまり、交通事故で怪我をして後遺障害を考える場合には、最終的に医師の診断を受ける必要がある。そして、認定機関は、最終的な診断書から、その経過を詳細に検討する。
この流れで考えるなら、交通事故でお怪我を治すために通うべきは、整形外科であるのか整骨院であるのか、明白です。整形外科に通院し、良好な関係を築きながらリハビリをするのがより良い選択ということになるでしょう。
柔道整復による施術は、身体の痛みを和らげることは事実です。もし、それをお望みであれば、柔道整復師を雇用していらっしゃる整形外科へ通院なさると良いでしょう。最近ではそのようなクリニックも増えつつあります。
整骨院だけの通院に偏重し、後遺障害で非該当であった場合、異議申立が認められるのは、申請件数の7%程度であることも、あわせて知っておかれると良いでしょう。
今日は、最近やたら整骨院をPRするNPOを目にするので、警鐘を鳴らす意味で本稿を出稿しました。ご不明な点はお気軽にお問合せください。ページ下部に関連する有意な投稿もありますので、あわせてご覧くださいませ。