「交通事故に遭って接骨院に通院していたけれど、大丈夫でしょうか?」というご相談が後を絶ちません。
「大丈夫か」というのは、最終的に示談に影響が及ぶことがないかどうかを漠然と心配していらっしゃるということでしょう。
接骨院・整骨院の交通事故被害者への勧誘は日々激しくなっています。それに対して、整形外科医も新しい訴求を行っています。
今日は、整形外科医側から見た交通事故治療と後遺障害等級認定について検討します。
- 交通事故治療は、医師と良好な関係を築くことが重要である。
- 後遺障害診断書を書けるのは医師だけである。
- 調査事務所の照会に対応するのも医師である。
日本臨床整形外科学会(JCOA)の啓発ポスター
最近、整形外科医院内でポスターを見かけるようになりました。主旨としては以下のようなことが書かれています。
事故後から接骨院等のみにかかっている場合や医療機関受診後に長期間にわたって接骨院等に通っている場合等は、症状の経過が不明となり、症状と交通事故との因果関係が証明できなくなるため、当院では交通事故における自賠責様式診断書や後遺障害診断書の作成をお断りする場合があります。
実のところ、交通事故でお怪我をなされた場合、医師が交通事故と症状の因果関係を説明する責任はありません。逆に、かかりつけの医師で直近にレントゲンを撮っている場合等でなければ、因果関係を証明することはできないでしょう。
このポスターの意味するところは「治療を優先し、余計な施術をしないでください」ということではないかと思えます。
ポスターが示唆すること
また、このポスターには、「切り札」とも言えるべき一文があります。それは「後遺障害診断書の作成をお断りする場合がある」という部分です。
この一文は、交通事故の治療で最終的に診断を行うのは医師であるということを明確に打ち出しています。被害者の立場で考えるなら「医者とは良好な関係を築く必要がある」ということです。
診察と治療を行える資格者
ホームページ中でも各所で触れていますが、日本で業として診察と治療を行うことができるのは医師のみです。それは、医師法に条文として記載されています。
第十七条 医師でなければ、医業をなしてはならない。
第二十条 医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。
治療を行うためには診察が必要ですが、医師であっても、自分で診察をしなければ治療を行うことはできません。医師以外の人間が治療を行うということは、できないはずなのです。
ところが、整骨院や接骨院では「交通事故治療」というのぼりを立てて集客を行っている所も少なくありません。これ自体、社会問題にならないのが不思議なくらいですが、こう言った営業活動に勧誘されて整骨院に通いはじめると、上述のポスターを掲示しているような整形外科にとっては心証がどうなるか…言わずもがなですね。
診察の結果を表す書面「診断書」が書けるのも医師のみです。後遺障害診断書は、被害者請求の際に添付する非常に重要な書類です。それを丁寧に書いて頂くにはどうしたらいいのかを考えると、やはり整形外科でしっかり治療して医師と良好な関係を築くことが大切であるとお分かり頂けるでしょう。
調査事務所からの照会対応
自賠責に後遺障害の等級認定申請を行うと、調査事務所から照会が行われる場合があります。この照会も後遺障害申請書を記載している医師に行われるのが通常で、整骨院に照会がなされたケースは聞いたことがありません。
医師は毎日毎日多くの患者さんを診察していらっしゃいます。ましてや、照会が行われるのは、通院しなくなって数ヶ月後です。その照会に対して細やかに対応して頂くためには、やはり通院時の人間関係が大切になってくるのではないでしょうか。
逆のケースを考えてみましょう。整骨院に偏重した通院で、後遺障害診断書だけ書いてほしいと頼みに来た被害者に、好意的な照会対応をするでしょうか。もちろん医師は客観的に書いてくださるでしょうけれど、その客観的な内容が「整骨院ばっかりに通っていたようなので詳しいことは知りません」では、どれだけ痛みが残っていても後遺障害は認定されないのが現実です。
整形外科と接骨院等の併用について
それでも接骨院の施術を受けたいとお考えなのであれば、併用という選択肢が考えられます。
接骨院を併用するかどうかは、医師との関わり合いもあるため繊細な問題です。医師の中には接骨院や整骨院に対して良い印象を持っていない先生もいらっしゃいます。そのような場合、対策を練って症状固定を目指していく必要があると言えるでしょう。
まとめ
NPOや○○協会など、接骨院の交通事故への参入は日毎に激しさを増している模様です。一方、整形外科医の先生方は、治療経過と後遺障害診断書という、等級認定の根幹を根拠にこの事態に対して一定の姿勢を示されました。
どちらを選択なさるかは、お怪我をなされた皆様方の判断となります。しかし、一度選択した方向を修正するのは困難でもあります。よく考え、情報を収集し、後悔のない判断をなさってください。