今日は、会社対会社、会社対個人で行う取引が利益相反に該当するケースとしないケース、その場合の議事録と印鑑証明書について検討します。
- 利益相反取引は代表取締役を基準に考えると簡単だ。
- 議事録の押印に印鑑証明書が要求されるのは登記上の要請による。
利益相反取引とは
利益相反取引とは、たとえば会社の代表取締役が会社に対して不動産を売却する場合です。
この時、悪知恵があれば、会社の代表取締役は相場よりも高い価格で会社に売りつけることができます。何故なら買う側もその代表者がハンコを押すことになるからです。
このように一人の人物が利害の対立する取引を行う時、取引の公平性を担保するために、民法や会社法で各種の規定が設けられています。
本稿は株式会社にフォーカスして検討しますが、親権者が我が子の財産を売却する場合なども同様の思想から規定が設けられています
会社法の規定
まずは条文に当たりましょう。
第三百五十六条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
2 民法第百八条の規定は、前項の承認を受けた同項第二号の取引については、適用しない。
本稿で検討するのは第二号に関する取引です。早速具体的に見ていきましょう
利益相反取引のケーススタディ
以下の設例では、赤字で記載された人が会社を代表して取引を行います。
みやこ株式会社
代表取締役A
えど株式会社
代表取締役A
この場合、文句なしで両会社とも利益相反取引を承認する決議が必要になります。
みやこ株式会社
代表取締役A、取締役B、取締役C
えど株式会社
代表取締役A、取締役B、取締役C
この場合、両会社とも利益相反取引を承認する決議が必要になります。
みやこ株式会社
代表取締役A、取締役B、取締役C
えど株式会社
取締役A、代表取締役B、取締役C
この場合、両会社とも利益相反取引を承認する決議が必要になります。
みやこ株式会社
代表取締役A、代表取締役B、取締役C
えど株式会社
代表取締役A、代表取締役B、取締役C
この場合、両会社とも利益相反取引を承認する決議が必要になります。
みやこ株式会社
代表取締役A、取締役B、取締役C
えど株式会社
代表取締役Z、取締役B、取締役C
この場合、両会社とも利益相反取引を承認する決議は不要です。
みやこ株式会社
代表取締役A、取締役B、取締役C
えど株式会社
代表取締役Z、取締役A、取締役B
この場合、えど株式会社のみに利益相反取引を承認する決議が必要になります。
みやこ株式会社
代表取締役A、取締役B、取締役C
相手方
個人としてのA、BまたはC
この場合、個人がABCのいずれであっても、みやこ株式会社で利益相反取引を承認する決議が必要となります。
利益相反の判別方法
利益相反行為で迷うとき、ドンピシャリの事例で判別しようと検索なされるかも知れませんが、この判別方法は意外に簡単です。
会社を代表して取り引きする代表取締役が相手方の取締役になっていた場合、その相手方会社は利益相反の承認決議を要する。
法則はこれだけです。
みやこ株式会社
代表取締役A、取締役B、取締役C
えど株式会社
代表取締役Z、取締役A、取締役B
この設例では、みやこ(株)の代取Aは、えど(株)の取締役になっている。ですので、「みやこ」にとっての相手方である「えど」の決議が必要となります。一方、えど(株)の代取Zは、みやこの取締役になっていません。なので、「えど」から見た相手方である「みやこ」は決議は要らない。
これだけのことなんですね。代取の相手方の取締役メンバーを見て、入っていれば、その相手方に決議が必要になる。これがセオリーです。
決議機関
では、決議はどこで行うのでしょうか。
取締役会非設置会社:株主総会の普通決議
取締役会設置会社:取締役会
取締役会の決議
取締役会では、利益相反行為を承認してもらう取締役は、決議に参加できません。定足数にもカウントされないので注意が必要です。
たとえば、取締役がABCの3名で、Aの利益相反取引について承認決議を行う場合、定足数はAを除いた2名となり、その過半数で決議することになります。
さらに、実務上、登記に記載する際の議事録には「特別利害関係を有するため本決議に参加しなかった」旨の記載が求められます。
一方、株主総会では、利害関係を有する取締役が株主であったとしても、決議に参加できます。
議事録に押印する印鑑
株主総会の議事録には原則押印が求められていませんが、不動産売買などで登記申請に用いるには議事録への押印が必要となります。取締役会議事録には記名押印が法的に必要となっています。
以下、登記に用いる場合のお話しです。
議事録を登記に用いる場合、押印すべき印鑑は、法務局に印鑑を提出している取締役は、当該印章を押印し、それ以外の取締役は、個人の実印を押印します。
そして、それぞれの印影を確認するための印鑑証明書を添付します。
また、取締役全員が分かる証明書を添付します。代表者事項証明書では足りませんので注意が必要です。
さらに、最も気になる点ですね。これらの証明書に法令上、有効期限は定められていません。
まとめ
利益相反取引承認は登記実務で頻出の事例ですが、いざ出くわすとやはり裏を取るため文献に当たることが多いのではないでしょうか。
本稿で紹介したセオリーは、私が司法書士事務所に勤めていた時代に自分で確認のために使っていた思考法です。
最後に、お決まりのことですが、登記は行政書士業務の範囲外であって、本稿は自己の経験に基づく知識の整理であり、業務とは関係のないことを申し添えます。資格者の方は他の文献でも裏をお取り頂きますようお願い致します。
この記事を書くに至ったのは、自分が利益相反取引を行うことになったからなのですが、それはまた、別の話…(「あなただけ今晩は」、お好きですか?)。
平成28年10月18日、「利益相半」と記載していた記事内容につき「相反」が正しいとのご指摘を頂き、誤字を修正しました。