住所表記で都道府県名は省略できるのか?

 住所を書こうとする際、場所によっては「都道府県名からお願いします」と言われることがあります。言われない場合も多くあります。
 本稿では、この、住所表記に都道府県名は必要なのかという論点について検討します。

  • 住所の表記は都道府県から記載するのが原則である。
  • 都道府県名=都市名、又は、政令指定都市の場合、都道府県名を省略できる場合がある。
  • 省略できるのは、限られたケースになりつつある(私見)。

住所記載に都道府県名は必要か

住所記載は都道府県を省略できるのか?

 当事務所は京都府にありますが、いちいち「京都府京都市」と書き出すの正直とても煩雑です。
 就職活動で履歴書を手書きする場合など、都道府県名を何度も書くのは煩わしく感じることでしょう。そこで、それについて法的根拠を入り口としてアプローチするのが本稿の目的です。

そもそも「住所」とは

 さて、まずは言葉の定義からはじましょう。住所とは、民法で定められている概念です。

第二十二条  各人の生活の本拠をその者の住所とする。

 これは、ある意味当たり前の条文ですね。

 住所とは、選挙の際にも重要になりますが、国にとっては、なんと言っても課税するのに必要でしょう。課税するには対象者に通知しなければならず、通知するためには住所を管理しておく必要がある。
「住民基本台帳法」では、住所を転入・転居・転出で変更する場合は、市町村長へ届け出なければならないと定めています。また、出生届には住所を記載する欄があります。こうして、住所は適切に役所で管理できるようになっています。

住所表記の原則

 では、住所表記の原則は、どのようにして決められているのでしょうか。これは、古くから世間で踏襲されていた慣例が「住民基本台帳事務処理要領」で成文化されたと考えます(私見)。

(住民基本台帳事務処理要領から抜粋)
キ 住所
 都道府県、郡、市、区(指定都市の区をいう。)及び町村の名称並びに市町村の町又は字の区域の名称のほか、住居表示に関する法律(昭和37年法律第119号)に基づく住居表示が実施された区域においては、街区符号及び住居番号を、その他の区域においては地番を記載する。なお、団地、アパート等の居住者について、上記の記載のみでは住所が明らかでない場合には、アパート名、居室の番号まで記載し、間借人が別個に世帯を設けている場合には「何某(間貸人氏名)方」まで記載する。また、都道府県、郡、市、区及び町村の名称は、別個に記載することとしても差し支えない。この場合において都道府県の名称は、指定都市等においては省略してもよい。

ここで住所として記載すべきは次の要素とされています。

  • 都道府県の名称
  • 郡の名称
  • 市の名称
  • 区(指定都市の区をいう。)の名称
  • 町村の名称
  • 市町村の町又は字の区域の名称
  • (住居表示が実施された区域の場合)街区符号及び住居番号
  • 地番
  • アパート名、居室の番号(上記のみで住所が明らかでない場合)

 つまり、住所を記載する必要がある場合には、このとおり記載しておけばほとんどの場合問題が生じることはないと言えるでしょう。

※そもそも、何故欧米とは違い、都道府県という大きい単位から書き始めるかという問題については、文化人類学的な論点であるため本稿では立ち入りません。

都道府県名が省略できる場合

 では、本稿の主題である、都道府県名が省略できる場合はあるのでしょうか。

「住民基本台帳事務処理要領」内の文言

 上記の「住民基本台帳事務処理要領」によると、「都道府県、郡、市、区及び町村の名称は、別個に記載することとしても差し支えない。この場合において都道府県の名称は、指定都市等においては省略してもよい」と記載されています。
 そして、この「指定都市等」の「等」は、都道府県名と同一都市を指していると解します(私見)。

 しかし、これには注意が必要です。この文言には「この場合において」という条件が付されており、一般論として援用するには多少無理があるからです。

商業登記の先例

 商業登記先例の中にも趣旨が同じものがあります。

(登記の記載につき)政令指定都市,都道府県名と同名の市を除いては,都道府県名を記載するのが相当である。
昭32.12.24民甲第2419号

 私の知る限り、登記実務においては、登記記録のみに限ることなく、委任状等の添付書類もこの先例に基づいて都道府県を省略するのが一般的であって、それで補正がついた事例は聞いたことがありません。

本稿の結論

 当ブログでは、本稿の結論として「その住所を含む文書の提出先が公的機関である場合、政令指定都市、都道府県と同名の市の場合、都道府県名を省略して差し支えない」と考えます。

本質を考えよう

 政府機関から出されたこの二つのステートメントは、本質において同じであり、これを根拠として都道府県を省略できる場合は当然あるでしょう。

 しかし、これらは、いずれも役所へ提出する文書において省略を認めたものに過ぎません。

 実際、手紙や葉書を出す際の契約約款となる内国郵便約款には、都道府県を記載するという文言があり、省略の可否について述べられた箇所は約款上はありません(但し、7桁の郵便番号を正確に記載すれば「住所の市区町村名(行政区名)まで記載を省略することができます」という解説ページはあります)。

住所を書いて何に使いますか?

 住所は、必要に応じて記載します。そして、記載する機会は様々です。役所へ住民票を取りに行く場合、遠方の人へお礼状を書く場合、親戚に時候の挨拶状を書く場合、就職する際の履歴書に書く場合…。

 住民票を取りに行ったり、親戚に時候の挨拶を書く場合、都道府県を書く重要性は低いように思います。それは自分の住所が何県にあるかということが、さほど重要ではないからです。
 一方、就職の履歴書に住所を書く場合、相手方が一目で地域をイメージできることは大切ではないでしょうか。「これはどこの県?」と担当者に無駄な質問をさせないためにも、都道府県はあった方が無難です。

 こうして考えると、住所に都道府県を記載するかどうかの判断で最も大切なことは、法律上の根拠ではなく、何故その住所を記載するのかという本質を考え、相手に失礼のないような選択をすることではないかと、私は思います。

まとめ

 普通の人なら都道府県名は知っていても、全ての市町村を記憶していることはないでしょう。「袋井市」で送られるよりも「静岡県袋井市」と宛名を書いて頂く方が、もらう方としてもありがたいものです。

 法的根拠を入り口に検討を始めながら、「時と場合を考えて」というありきたりな結論に辿りついてしまいました。しかし、それこそが、住所を書く上で大切なことだと、本稿を掲載するにあたって、改めて感じました。
 ご参考になさってください。