本日(平成28年6月17日)の京都新聞に「京都府が簡易宿所の許可取得で「民泊」に優良認証を行う制度を創設する」旨の記事がありました。
無許可の民泊を駆逐し、許可を取得した民泊のステータスに応じた認証を行うというのが趣旨のようです。京都が率先して行うことでフラグシップモデルを目指すという趣旨の記述もありました。
これは、大変好ましいことです。しかし、少なくとも京都市においては、認証制度よりも先に検討すべき課題があるはず。それは、玄関帳場のあり方等を見直すことです。
以下、玄関帳場を設けること等についての私案を述べ、京都市に対し条例の見直しを提言します。
現状の問題点
- いわゆる「一棟貸し」でも玄関帳場が必要なのは合理的でない。
- 帳場を設ける必要があるために、採光が確保できない。
- 「一棟貸し」でなくても、その実質は「一棟貸し」になっている。
玄関帳場の実際的な有用性を考えよう
玄関帳場というのは、日本的な民宿で宿泊台帳に記名したり、精算をしたりするいわゆる「フロント」のことを意味します。
普通の民宿では、少なくとも一定時間はその民宿の従業員が常駐に近い形で在所しています。
こういう所では、当然玄関帳場は必要となってくるでしょう。
しかし、今はやりの民泊は、管理者や従業員が常駐或いは当該施設に在所して、鍵を受け渡すことを想定している方が少数です。
通常の場合、鍵のみを渡す形にするか、許可を取っていない民泊では、暗証番号を教えて会うこともなく入館できるケースもあると聞き及んでいます。
そう考えると、玄関帳場は実際的に必要ないケースが多く、むしろ、形骸化してしまい許可の取得に悪影響さえ及ぼしかねません。
玄関帳場が悪影響を及ぼすケース
現状の京都市の規則によると、帳場が要らないのは京町家で一棟貸しをして、その他の要件に該当するものです。
京町家の要件としては建築基準法施行時が一つの基準となっており、それ以降に建てられたものについては、一律で帳場が必要になります。
しかし、帳場には2㎡以上の面積が必要ですので、その場所を確保するためには、通常は玄関近くの一部分を間仕切って使うことになります。このとき、実務上は採光部分を取られてしまい、他の客室部分で採光面積を確保するのにとても苦労することが多々あります。
ただ、帳場を確保できればいい方で、帳場が作れないために諦められる方もいらっしゃいます(予算や契約上の問題で)。
このことから、京都市は帳場を必要とする要件について、再度検討をするべきと私は思います。
「一棟貸し」とそうでない場合の違いについて
「一棟貸し」というのは、客室を一室とすることを言います。つまり、玄関部分以外は全て客室になる、と言い換えることができます。廊下も、階段も客室になるということです。
これに対し、客室を一室としない場合、廊下や階段は客室面積には算定されないことになります。
ただし、これには注意が必要で、廊下や階段には建築基準法の旅館の規定が適用されることになります。つまり、階段には手すりが必要となり、回り階段はNGとなります。こうなってくると、民泊が可能な物件は著しく減ってしまいます。
ところで、民泊において、この客室を「一室」とするかどうかというのは、実務的には観念的に決められています。「採光が足らないから一室とせずに廊下の面積を削ろう」と言った調整をすることがあります。
もちろん、通常の簡易宿所においては、観念的ではなく、実際的に決められることでしょう。けれど、民泊は基本「一棟貸し」なのです。一つの家に二組が入ってシェアするという形式もあるでしょうけれど、それは少数派といえるでしょう。
このように、観念的に一室であるとかないとかを区別するくらいであれば、一棟貸しの場合でも、廊下と階段部を採光面積の対象から除外すべきだと私は考えます。
まとめ
私の提言をまとめると、以下のとおりとなります。
- 民泊に玄関帳場は不要である(実情にそぐわない)。
- 一棟貸しの簡易宿所を定義づけるべきである。
- 一棟貸しの簡易宿所でも、廊下や階段部分は採光面積の対象から外すべきである。
こう書いてみると、この提言は当たり前のことを言っているに過ぎません。けれど、規則を変えるのは大変で、当たり前のことを実現するのに時間がかかるのもまた事実です。
認証制度など、華々しい花火を打ち上げるのも大切かもしれませんが、まずは足下をしっかり固めてこそ、制度は育っていくのではないでしょうか。