京都市において第一種動物取扱業は第一種低層住居専用地域で開業できるのか

先日、不動産購入の前段階調査の依頼がありました。
トリミングサロンを経営したいのだけれど、候補物件の用途地域が第一種低層住居専用地域になっている。そこで開業できるのかどうか、という調査依頼です。

これについて調べた結果を共有します。この論点には複数のポイントがありました。
以下、みていきましょう。

京都市において第一種動物取扱業は第一種低層住居専用地域で開業できるのか

【結論】
☆京都市において第一種低層住居専用地域でも第一種動物取扱業の登録を受けることはできるが、開業することは難しい。
☆開業することが難しい以上、第一種低層住居専用地域で登録申請をするのはお勧めできない。

以下、解説してきます。

トリミングサロン開業に必要な許可

トリミングサロン、つまりペットの美容室を開業するためには、第一種動物取扱業の登録が必要となります。
第一種動物取扱業は「社会性をもって一定以上の頻度又は取扱量で、事業者の営利を目的として動物の取扱いを行い、社会通念上、業として認められる行為」と定義されています。

さらに、動物をどう取り扱うかで業種区分がなされています。動物取扱業の対象となる業種は「販売」「保管」「貸出し」「訓練」「展示」「競りあっせん」「譲受飼養」の7種類となります。

今回依頼となった、ペットの美容室については「保管」に区分されます。ペットをしつける場合は「訓練」になるといった具合で、種類が増えると行政に支払う手数料が割高になっていく仕組みです。同一の場所で複数業種の登録を受けることができます。

都市計画法・建築基準法上の要件

さて、何かビジネスを始める際には、ビジネスそのものの許認可以外に「場所」について詳しく調べる必要が出てきます。
ある建物で事業をしようと考えた時、その場所でできるかどうかを調べる必要があります。

閑静な住宅街として発展してきた街にいきなりどでかいカラオケボックスが建つのは具合が悪い。或いは、工業専用地域として整備している場所に保育園が建つのも相応しいとは言えない。

都市計画法では区域について規定があり、建築基準法がそれを用いて区域毎に「建てられる」「建てられない」と言った区分けや要件を定めています。

トリミングサロンは建築基準法上どんな用途になるのか?

では、建築基準法上トリミングサロンはどういった用途になるのでしょうか。
建築基準法上の「建築物の主要用途一覧」にドンピシャリで該当するものはありませんが、大阪府箕面市が出している見解が参考になります。

○ペットの繁殖
○ペット訓練等の受付業務のみ
○ペット病院
○ペット美容院
○ペットホテル
○ペット用品の販売店
○ペットの対面販売店
令第130条の3第1項1号
(事務所)
令第130条の3第1項3号
(サービス業を営む店舗)
令第130条の3第1項第2号
(日用品の販売店舗)

出典:箕面市ホームページ ペット関連施設の取扱いについて(建築基準法第48 条に関する取扱い) 〔参考:「建築基準法及び同大阪府条例質疑応答集(改定6 版)」〕

この見解で考えると、ペット美容院は「サービス業を営む店舗」ということになりますね。
「畜舎」として考えていない所が要注意です。

京都市における建築基準法の当てはめ

さて、大阪府箕面市では一定の制限はあるものの認められはしている第一種低層住居専用地域(以下「一低層」と略します)でのトリミングサロン開業ですが、京都市の建築審査課からは認められないという見解が返ってきました。
美容室自体は認められているが、それは人が対象であって動物は対象にならないというのが京都市の見解です。

一方、最初に「京都動物愛護センター」に相談した際は「詳しくは建築審査課の担当になるが15㎡の制限で併用住宅なら行けるのでは」というコメントがありました。

つまり、同じ京都市でも見解が異なった訳です。
これを理解するために色々調べた訳ですが、最終的には建築審査課の見解に従わざるを得ないと結論しました。

この見解の齟齬は、建築基準法をどう読み取るかに起因するものと思われます。

建築基準法施行令第百三十条の三では、一低層に建築できる兼用住宅の用途を定めています。そこに美容院が書かれていますが、動物は対象にならないからペットのトリミングサロンは無理、というのが建築審査課の考えです。

一方、第百三十条の五では「第一種低層住居専用地域等内に建築してはならない附属建築物」について規定されています。
ここに「床面積の合計が十五平方メートルを超える畜舎」と書かれていることから、反対解釈として「15㎡を超えない畜舎は大丈夫」という見解が出てきたものと推察されます。
しかし、トリミングサロンは厳密には畜舎ではありませんし、この第百三十条の五に規定されているのは【附属建築物】についてであって、兼用住宅についてではありません。
ですので、ここで想定しているのは15㎡を超えない頑丈な犬小屋のようなものなのでしょう。

他都市の状況

先に見たように箕面市では、ペットに関する各種施設について区分けを行い整理して、一低層でも二低層でも15㎡以内等の制限付きで営業を認めています。
他にも同じ条件で認めている市町村の資料がインターネットで確認できました。

認めている所は「畜舎15㎡」の規定を拡大解釈・或いは類推適用のような形で当てはめることで認めているように見受けます。

開業の実際

では京都市において一低層でトリミングサロンはないでしょうか?
いえいえ、そんなことはありません。ざっと探しただけでも複数軒見つかります。

これは何故かと言いますと、京都動物愛護センターと建築審査課は別部署ですので、第一種動物取扱業登録申請において用途地域は審査事項にならないのです。
ですので、一低層であっても申請すれば登録はできることになります。

これが、実際に一低層でトリミングサロンが営業できている理由です。
登録できても、その建物が建築基準法違反であれば営業はできなくなる可能性があります。
ですので、これから許可を取る場合は一低層は避けることをお勧めします。

再度の検討

今回、京都動物愛護センターと建築審査課で見解が異なっていたため右往左往することになりました。何故そんなことになったのかと言えば、それはやはり「畜舎15㎡」に引っ張られ過ぎたのだと反省しています。

「15㎡以下の畜舎OK」は附属建築物に関する規定なので、兼用住宅部分についての適用はないはずです。それに、トリミングサロンの場所自体、そもそも畜舎とは言えません。

一低層でペット関係のお商売を認めている自治体は便宜この15㎡に乗っかってるだけでなのでしょう。

畜舎とは、単純に動物の家な訳ですから、販売などの営業行為をする「店舗」とは区分されるべきはずです。けれど、法律にたまたま「畜舎15㎡」があるから何となくそれを使っているのだと私には思えます。

まとめ

インターネットでも随分検索しましたが、一低層でも「できる」「できない」「自治体による」など、答えは様々でした。
正解は「自治体による」ということになりますが、その「自治体」は、第一種動物取扱業を所管する部署と建築を所管する部署の2箇所になります。どちらもが「OK」と言って始めて安心して営業できるという流れになります。その点を忘れず確認しておかれると良いでしょう。

ご参考になさってください。
※京都動物愛護センターさんからは「建築については建築審査課に確認してください」と伝えられており、用途地域が審査対象外である旨の説明も受けています。本稿は「誰が間違えていた」という話しではなく、複数部署での確認が大切であることを伝えるために出稿していることをご理解ください。