交通事故に関係する各種の保険制度について

交通事故で使える保険について教えてください。

交通事故に遭って怪我をしました。はじめて聞く用語ばかりで困惑しています。使える保険について教えてください。

答え

自賠責保険・任意保険・労災保険が主なものです。

それぞれの保険制度の仕組みを知り、状況に応じた対応を考えていきましょう。

 交通事故に遭った際、被害を受けた方が関係することになる保険は、大きく分けて自賠責保険・任意保険・労災保険の三つです。以下、順に見ていきましょう。

自賠責保険

 自賠責保険というのは、法律によって加入が義務づけられている保険です。正式には『自動車損害賠償責任保険』と言います。また、JAなどの協同組合が行う場合は『自動車損害賠償責任共済』と言います。通常は、この両者をひとくくりにして「自賠責保険」と総称しています。

 自賠責保険の根拠法は、自動車損害賠償保障法です。同法第5条では、次のように定められています。

第五条  自動車は、これについてこの法律で定める自動車損害賠償責任保険(以下「責任保険」という。)又は自動車損害賠償責任共済(以下「責任共済」という。)の契約が締結されているものでなければ、運行の用に供してはならない。

 つまり、法律が予定している世界では、運転される自動車にはすべて自賠責保険がかけられていることになります。

 ちなみに、自賠責保険は、新車であれば購入時、その後は車検の際に保険料を納入することになります。したがって、自賠責保険がかけられていない自動車とは、車検切れで運転している自動車のことになります。

自賠責保険の役割

 自賠責保険は、被害者保護のために国が加入を強制した保険です。ですので、対自動車(或いはバイク)の事故に遭った被害者の方は、第一次的には、自賠責保険で救済されます。
 しかし、無制限に救済される訳ではなく、以下の特徴があります。

  • 物的損害は、原則として補償の対象外です。
  • 傷害による損害は、被害者1名につき120万円が限度です。
  • 死亡による損害は、被害者1名につき3,000万円が限度です。
  • 後遺障害として認定された場合、被害者1名につき4,000万円~75万円を上限として逸失利益と慰謝料が支払われます。その算出は、お怪我の部位や程度によります。

 いずれの場合も、上限額が保障される訳ではなく、実損額や逸失利益を算出し、その合計が上限に達するまでは、自賠責保険で保障を受けることができる、という理屈です。

 では、上限を超える場合はどうなるのでしょうか。たとえば、32歳で独立開業した医師が、開業後3年間、常に年収3,000万円程度あった状態で事故に遭い死亡した場合などの損害額は、到底自賠責保険の保障額(3,000万円)で収まりません。

 また、就労していない大学生であっても、お父さんの高級車を運転中に後ろから追突されて車が大破した場合も、物損は自賠責から支払われることはありません。

 このような場合に備えて加入しておくのが、任意保険です。□□損保さんと言った、損害保険会社が売り出している自動車保険ですね。

自動車保険(任意保険)

 自動車保険は、実務では「任意保険」と呼ばれています。それは自賠責保険が強制保険であることを対比した呼称であると言えます。強制保険である自賠責保険に対し、自動車保険は加入が任意のため、全国的にも加入率は8割弱になっています。

 任意保険には、対人賠償保険において自賠責保険の上限である3,000万円以上の部分をカバーできる他、自賠責では保障されない対物賠償保険があります。
 この保険によって、被害者は車や衣服の損害について補償を受けることができます。

 また、人身傷害保険や、搭乗者傷害保険、車両保険などを組み合わせて保険契約を行うことが一般的です。

 人損部分について、任意保険で担保される範囲は自賠責保険とほぼ同じです。ただし、将来の介護料は、自賠責保険に支払規定はありませんが、任意保険では支払われます。

労災保険

 交通事故で、意外に知られていないのが労災保険が使えるということです。業務中に遭った事故はもちろんのこと、通勤中であっても労災の適用があります。

 労災というと「事業主が…」とおっしゃるケースが少なくありません。

 しかし、労災の使用は事業主が決めることではありません。労災を適用するには事業主の協力があった方が良いことは事実です。しかし、仮に事業主が押印を拒んだとしても労災自体の届出は可能です(事業主が拒んで労災の申請ができなければ、労災の制度自体が機能しなくなってしまいます)。

 しかし、会社で働く以上、事業主の理解と協力を得て手続を進めることは、信頼関係を維持する点からも重要でしょう。まずは、事業主に相談なされることが大切です。

 労災に認定されると、治療費は窓口負担もなくなり、休業損害についても特別支給金制度があります。特別支給金が支給されると、休業損害は最高で12割の給付を受けることができますので、少しばかりお得な制度です。

 労災の場合、多くは自賠責保険も使えることになりますので、治療費をどちらから先行して支払うか、という問題があります。
 この場合、どちらを先に使うかは被害者の判断になりますが、過失割合や相手方がかけている保険によって、どちらを先行させるのか検討が必要になります。

健康保険

 こと治療に限っていうならば、健康保険も重要です。
 交通事故でお怪我をした際、最も大切なことはすぐに通院することです。この時、病院側にとっては「治療費を支払ってもらえるか」ということは非常に大切になります。
 ですので、治療費はどうするのか、ということはすぐに判断しなければなりません。

 選択肢となるのは「自由診療」「健保適用」「労災適用」の三種類です。

 過失割合が大きい場合は、自由診療よりも健保を使う方が賢明な場合もあります。しかし、医療機関によっては健保を嫌がる場合もありますので、事故の状況を話して理解を得るなどの努力も必要となるでしょう。

保険を理解し賢明な選択を

 交通事故に遭ったとき、保険を理解することは非常に大切です。たとえば、自動車を二台保有している時、どちらかの自動車保険に弁護士費用特約を付けていれば、もう一方の自動車で事故に遭った時でもその特約を使うことができます。

 私は、この事例で何度も「弁護士費用特約はない」と思い込んでいらっしゃった被害者さんを、弁特を使って解決まで支援してきました(もちろん弁護士を紹介しており、弁護士法違反になることはしてません)。

 その他、人身傷害保険や無保険者傷害保険など、任意保険には様々な種類があります。
 また、自賠責か健康保険か、どちらを使えばいいかということは、過失割合はお怪我の程度によって判断すべきです。それについても、それぞれの保険に対する理解が欠かせません。

 当事務所では、このようなご相談についても無料相談でアドバイスを差し上げておりますので、お気軽にご相談ください。

まとめ

 交通事故に関わる保険としては、自賠責保険・任意保険・労災保険と、治療のための健康保険が考えられる。
 それぞれの特性を理解し、事故状況・お怪我の程度や相手方の保険加入の有無によって、それぞれの局面で適切な選択を行っていくことが大切である